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印鑑の歴史と電子印鑑について
今回は相続手続きにも深い関わりのある印鑑の話です。
わが国にもようやくデジタル庁が発足し、本格的なデジタル社会に向けた動きがスタートしました。その狙いは国や地方行政のIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタルによる社会変革)の推進を目的としたもので、総務省と連携してマイナンバーカードを普及させ公共情報サービスのシステム化を図る狙いもあります。
それと平行して、国や地方行政においていろいろな書類の閲覧や承認に印鑑を押す習慣を廃止する動きもあります。情報のデジタル化によって押印の手間を省き、紙の書類をできるだけ少なくして業務の効率化とスピード化を図る狙いです。そのため印鑑が不要になるのではないかとの危機感から、印鑑の製造や流通に携わる組合や業界から印鑑の良さをもう一度見直そうとの声も上がっています。
この印鑑は、もともと古代メソポタミア地方で発祥し、東は中国、西はギリシアやエジプトなどを経て日本や欧州に伝わりました。日本では北九州で発見された「漢倭奴国王」の金印が最古で、平安や鎌倉時代になると個人の印として定着していきました。わが国の印鑑はハンコ(判子)とも呼ばれ、大名や僧侶たちが「花押」(かおう)という独自の様式化された書体で自署するようになり、一つの文化として定着しました。
明治になって印鑑登録制度が導入され、字の書けない庶民でも印鑑登録した実印があれば本人証明ができ、大いに普及しました。しかし欧州などでは印鑑の習慣はほとんど残らず、中国でもごく一部で使われているだけです。
ところで最近は電子印鑑という言葉をよく聞きますが、それはどのようなものなのでしょうか。簡単に言えば電子印鑑とはパソコン上の文書に印鑑を押印できるようにしたもので、紙に印鑑を押すのと同じようにWordやPDFなどで作成したデータに直接押印できます。
それで普通の印鑑と同じ効力があるのでしょうか。これについてはそもそも印鑑の役割は実印を除いては書類の内容に対し確認または承認したとの意思を示すことにあるため、その法的効力に特に違いはありません。電子印鑑も認印程度の効力しかなく、重要な契約はやはり紙の書類への押印が基本と言えます。
とはいえ法人税の電子申告が義務化されたことにより、資本金1億円超の大企業はオンラインで税申告しなければならず、会社実印が必要になることも考えられるため、今後は電子印鑑がないと不便かもしれません。
電子印鑑はパソコンさえあればフリーソフトなどで簡単に作成できますが、印影の複製や改ざんが容易というセキュリティ面の心配があります。こうしたセキュリティ面の課題が解決されれば、今後さらに普及することも考えられます。(それを防ぐため印影にシリアル番号や使用者情報などのデータを保存できるものもあります)
皆様もご自分で個人のユニークな電子印鑑を作成してみて下さい。